ウィスパー // Whisper

ウィスパーボイスの歌姫たち

ィスパーは英語で ” 囁き ” という意味だが、ウィスパーボイスは一種の発声技法である。
主に、声と共に息が漏れる音が混ざったような声で、声量を感じない。歌だけではなく、ナレーションなどで使われることも多い。歌い手がこの技法を意識してようがしてまいが、ウィスパーボイスは個人的に好みである。

歌ものであれば特に、絶対的位置に君臨するボーカルという立場でありながらも、強い主張がないのにも関わらず、楽器の一部のようであり、なによりもなくてはならないキーパーソン的位置を務めるその存在感に魅せられることが多いからかもしれない。今回は、そんなウィスパーボイスの歌姫たちの楽曲に焦点を当てたいと思う。

90年代を代表するネオアコギターポップバンドの歌姫 / アイコ

日本のバンド代表、ウィスパーボイスの元祖歌姫といえばズバリAdvantage Lucyのボーカル、アイコさんだ!と思う人も少なくないのではないだろうか。

当時CDTVのオープニングテーマとして使われた「グッバイ」もいまだ記憶に新しい。さわやかでリズミカルなギターポップに、今にも壊れてしまいそうな繊細な声がとても魅力的。

 

儚さがあるのに、どこか力強いアイコさんの声にぜひ注目して聴いて頂きたい。
楽曲自体はイントロからアウトロまで非常にポップでさわやか。これからワクワクするような春らしい歌のようだが、アイコさんのウィスパーボイスの存在があることで、曲の印象がガラッと変わる。

Aメロはなんだか寂しそうな印象、なにかしらのことからまだ前に進めないでいる切ない思いが表現されるがサビに入った瞬間、少し目の前が晴れたように景色がパッとひらける。曲の構成はとてもシンプルなのに、曲にどんな背景やストーリーがあるのか、アイコさんの声の存在によって色付けされ、さらに聴き手に読み取りやすくなる。ウィスパーボイスというある意味頼りない声だからこそ、より誰にでも共感しやすい楽曲になるのではないかと思う。また、細々と歌われる部分であっても何が歌われているのか歌詞がはっきりと聞き取れるというところにも、表現力の高さを見せつけられる。

オールラウンダー系ウィスパーボイスの歌姫
/ Inara George

ロサンゼルス出身の2人組音楽ユニット、The Bird and The Beeのボーカルでもある、シンガーソングライターのイナラ・ジョージ。The Bird and The Beeの楽曲といえば映画「Sex and the city」の挿入歌として使われたHow Deep Is your Loveはご存じの方も多いのではないだろうか。

個人的には、非常にポジティブな意味でオールラウンダー系の歌姫だと思っている。決して個性的な声ではないのだけれど、楽曲を自分のものにしてしまう天才だと思う。曲ごとに声のニュアンスを絶妙に変化させ、「あぁやっぱりイナラ・ジョージか!」と気づくよう仕掛けられているかのように、曲に自然と自分の声を融合させてしまうのだ。

イナラ・ジョージのウィスパーボイスは全ての楽曲で聴けるわけではない。普通の声量で歌われている楽曲も多くあるため、意図的に使い分けているのではないかと思われる。その巧みなテクニックに私はとても魅力を感じ引き込まれ、気付いたら完全にファンになってしまっていたのである。
イナラ・ジョージのウィスパーボイスが使われている楽曲の中でも特におすすめしたいのがこちら。

 

カラオケ風なんだろうけど、なんともいえない気持ちになるMVだ。笑 一体何を訴えているのか非常に気になるところである。

ちなみにThe Bird and The Beeだけでなく、イナラ・ジョージはソロとしても活動している。The Bird and The Beeでの音楽はややシンセサウンドやドリーム・ポップ要素が強いように感じるが、イナラ・ジョージソロのほうは、どフォークだったりポップス寄りなので癖のないほうがお好みの方には聴きやすいかもしれない。

一度聴いたら忘れられない中毒系ウィスパーボイスの歌姫
/ 大坪加奈

中毒性が高いウィスパーボイスの歌姫といったら個人的にはこの方か、やくしまるえつこさんぐらいしかいない。笑 3人目の歌姫はSpangle call lilli lineのボーカル、大坪加奈さんにフォーカスしてみる。

Spangle call lilli lineは自分が音楽をやっていた時代に、友人に教えて貰い聴き始めた。初めて聴いたアルバム「nanae」は当時本当によく聴いた。

始めに挙げたAdvantage Lucyのアイコさんと異なり大坪加奈さんの場合、歌詞があまり良く聞き取れない。でもなぜかそれがすごく心地よく、スッと耳に入ってくるのが不思議。歌声の浮遊感もとても気持ちがいい。また、曲の構成に合わせて意図的に声のコントロールをしているようにはまるで感じないのに、そこにある存存感がまるでブレることがない。

Spangle call lilli lineのアルバムはほとんど聴いたけれど本当にジャンルの幅が広く、それがアルバム毎にコロコロ印象が変わって毎回ワクワクさせられる。一枚一枚にカラーがあってどれもいつも新鮮。それでもやっぱりSpangle call lilli lineのアルバムだ、と認識できる理由の1つに、この大坪加奈さんというボーカルの存在がとても大きいのではないだろうか。

 

ネオソウル界ハーモニー系ウィスパーボイスの歌姫
/ Amber Navran

夜に聴きたくなるメロウなハーモニー系歌姫といったら、MoonchildAmber Navranを激推ししたい。Moonchildは南カリフォルニア大学のジャズサークルで結成されたマルチプレーヤー3人組の新世代ネオソウルバンド。たまたまいい曲ないかな〜ってApple Musicで色々探しながら聴いていた時に出会ったアルバム「Be Free」どんだけ~ってくらい死ぬほど聴いた。

ボーカルは腹から声出せ系が好きな人はもしかすると好みじゃないかもしれないけれど、こういったミニマルサウンドにアンバーの声ってすごく似合う。ふわっとした存在感としっとりと色気のある無色透明な感じのささやき声がいいスパイスになって、これまた本当におしゃれ。2017年に発売されたアルバム「Voyager」は本当に名盤。もう本当に何回リピートしたことかってくらい未だに聴く。

 

アンバーはソロとしても活動しているが、Moonchildのメインボーカルというだけではなく、サックスやフルート、クラリネット奏者としてのマルチな才能もあり、プレイヤーとしてもあちこちで活躍している。

ソロアルバムに関しては全曲の作詞作曲、プロデュースからミックスまでセルフで行っていたようだ。これだけの素晴らしい歌声と世界観を持っていながら実力ありすぎて引く。笑 さらにはこの美貌。かわいい。すごいなぁと改めて感銘を受けたボーカリスト。

Moonchildを初めて聴いた時は夜がすごく似合うとずっと思っていたんだけど、このMVを観て大自然もすごく似合うことに気づいた。先入観というものって案外脆いよね。

◯◯の歌姫なんて勝手につけてしまったけれど、こうみてみるとウィスパーボイスだけでなくハスキーボイスやファルセットなども色んな特徴や個性があってすごく面白いかもしれない。
ウィスパーボイスに関しては、一見弱々しい感じがするけれど、楽曲の印象そのものを左右する非常に重要な役割だということも改めて感じることができた。

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